物体色に影響する光の性質【反射・吸収・透過】
これまでの記事では、色を見るための3つの要素、光源・物体・視覚のうち、主に「光源」の色について解説してきました。今回は「物体」の色について考えていきます。
私たちがいつも物体の色として見ているのは、物体に当たって跳ね返り、または通り抜けて変化した光が目に届き感じた色です。そのため、光源の色温度だけでなく、物体がどんなものかによっても、見える色が異なります。
光の反射・吸収・透過
物体に光が当たると、表面で「反射」する、「吸収」する、「透過」する、このいずれかになります。
物体の色が決まるのも、この反射・吸収・透過があるためです。様々な波長のうち、一部は物体に吸収され、一部は反射や透過されることで、物体から目に届く光に含まれる波長が決まります。
反射
例えば、リンゴが赤という色に見えるのは、リンゴが光の中の長波長(赤)の光をよく反射し、それ以外の波長の光を吸収するためです。長波長(赤)の光が目に届き、脳が「赤」という色を感じることができます。
透過
ステンドグラスや、ビールなどの液体は、向こう側の光源に色がついていないように見えても、通り抜けてきた光には色があるように見えます。光源からの一部の光だけが物体を透過することができ、目に届き、それ以外の光は反射したり吸収してしまい通り抜けません。透過した波長の光によって、感じる色が決まります。
吸収
光が物体に当たると、波長によって一部が反射、または透過しますが、残りは吸収されます。
反射、透過した波長の光を、私たちは物体の色として見ているのです。全ての光を吸収する物体は、黒に見えます。
物体の色の分光分布
光の波長の強さを示す【分光分布】の記事では、光源の分光分布について、それぞれの波長を確認しました。光を波長ごとに分けグラフで表したものが「分光分布」と言いましたね。
この分光分布が光の成分を表すのに対し、物体の色の分光分布は、光の成分が物体に当たって反射、あるいは透過した割合を示すグラフになります。これを「分光反射率曲線」(透過の場合は「分光透過率曲線」)といいます。
グラフの横軸は可視光の波長範囲、縦軸が光の反射率を示します。反射率とは光源からの波長の光が何%程度反射するか表します。
例えば、700nmの光をそのまま完全に反射する物体であれば、反射率は1.0ということになります。
このグラフを見ると、リンゴは長波長の光を多く反射する物体であることがわかります。
しかし長波長の光を多く反射するリンゴでも、光源が短波長(青)だったらどうでしょうか。いくらリンゴでも反射させる長波長(赤)の光が無ければ、赤には見えません。※
このことから、物体の色は光源の分光分布と物体の分光反射率との関係によって、決まるといえます。
※実際は、演色性の低い光でリンゴを見ても、赤に見えることがあります。
これを色の恒常性(実際の分光分布は違うが、無色の光で見ている場合と同じように色が見えること)といいますが、これは目だけなく脳などで信号の処理を行うために起こる現象です。
正反射と拡散反射
反射には、正反射と拡散反射があります。
正反射
光の入射角と反射角が等しく、鏡のような滑らかな面の反射を正反射といいます。
鏡に映った像が歪まないのは、この正反射により入射した光に対し、反射した光の方向が一定になるためです。
拡散反射
光があらゆる方向に散らばって反射することを拡散反射といいます。
光沢がない紙や石膏のような表面に凹凸のある物体に光があたると、拡散反射します。
実際には、正反射と拡散反射が混在しており、その特性がきめや光沢などの質感の違いに影響を与えています。
正透過と拡散透過
透過にも、正透過と拡散透過があります。
例えば、透明ガラスは正透過で、入射した光は直進して反対側に出ていきますが、曇りガラスは拡散透過で、入射した光は様々な方向に散らばって出ていきます。
この記事に続き、次回も物体色に影響する様々な光の性質について解説します。
記事監修:株式会社プラスカラーズ 代表 岩田亜紀子 / 色彩検定1級カラーコーディネーター
参考文献:色彩検定公式テキスト 2020年改訂版