応用して活かそう【色の錯視】
錯視とは視覚に関する錯覚のこと。
物理的性質(物差しで測った長さや大きさ、測色機器で測った色の数値)と、見た目に感じられる心理的性質(知覚印象としての長さや大きさ、感じられる明るさや色みなど)が際だってずれる現象です。
錯視には、様々な種類の現象があり、多くは報告者や発見者の名前で呼ばれています。
ハーマングリッド
左の図の、白い線の交差部分にぼんやりとグレーの影が見えます。この現象は明るさの錯視であり、ハーマングリッド(ハーマン格子)と呼ばれます。
白い線には幅があり黒と接している部分に縁辺対比が起こることで、より明るく見える一方、交差部分の中心は黒から離れているので縁辺対比が弱く、相対的に暗く見えると解釈されています。黒でなく色が入った場合は、同色相で彩度の低い影が見えます。
ただし、歪んだ線を組み合わせた図形ては、この錯視が生じないことから、他のメカニズムも関与しているとも考えられています。
マッハバンド
上のグラデーションの図を、①明るい面、②段階的に明るさが変化する面、③暗い面の3つに分けて見ると、①と②の境界に明るい帯が、②と③の境界に暗い帯が見えますが、これをマッハバンドといいます。
明るい部分の境界は他よりも明るく、暗い部分の境界は他よりも暗く見えるという、明るさ対比の最も基本的な仕組みであり、生理学的には網膜で生じる側抑制で説明することができます。
境界を強調する側抑制とは
刺激を受けた神経細胞と隣接する神経細胞との間に差を作るために、隣接する神経細胞の興奮を抑制する働きを「側抑制」と言います。
色相や明るさが違う色どうしが接して境界があると、そこに輪郭線が存在するという情報を、神経節細胞が脳へと送ります。このとき、輪郭線の存在をより明確にするために、色や明るさの違いに関する情報を強調して伝えますが、これが側抑制の作用であり、この側抑制によって縁辺対比が生じます。
リープマン効果
異なる有彩色が隣接し、それらの明度差がほとんどない場合、境界線があいまいになり、チラついて見え、図と地の関係が不安定となる視界印象を生じさせます。これをリープマン効果と呼びます。
色相差、あるいは彩度差のみで明度差のない刺激では、形の認識が困難になります。文字や形がよく見えるようにするためには、色相差よりむしろ明度差が必要といえます。
エーレンシュタイン効果
上図では、格子の線が交差する部分が抜けています。この抜けた部分は、背景が白い場合はより明るく、黒い場合にはより暗く感じられます。抜けた部分が比較的小さい場合は、明るく(暗く)見える部分に明瞭な円形が見えますが、この円形を実践で囲むと明るさ(暗さ)の錯視が消失します。
この現象をエーレンシュタイン効果といいます。
ネオンカラー効果
上記、エーレンシュタイン効果で用いた格子線の、抜けた部分を別の色の線で繫ぐと、その色が線からにじみ出て拡がるように見えます。これは、光を放つように丸く広がって見えるので、一般にネオンカラー効果と呼ばれる錯視です。
透明視
図は明度の異なる無彩色の図形で構成されていますが、白い図形の上に半透明のフィルムが置かれているように見えます。
これは、より単純で規則的な見え方を好む視知覚(視覚的刺激を以前の経験と連合させて解釈するという能力)の原則により、半透明のフィルムが重なったかのように見える錯視で、透明視と呼びます。
色を入れた場合も同様で、例えば図のように黄と青と緑の図形を配置したときに、緑の部分は透明感が生じます。しかし、図形をわずかにズラすだけで透明な印象が不透明な印象に変わることから、透明視では混色の規則ではなく、形と配置の関連により、このような現象が生じることがわかります。
主観色とベンハムトップ
図を見ると、薄いオレンジや青緑の色の流れを感じると思います。このように無彩色であっても、特定の条件で有彩色を知覚する現象を総称して主観色といいます。人間が感じる色であり、個人差もあるため主観色と言われています。
主観色の代表的な例として、ベンハムトップがあります。
白黒のみで塗られた独楽(コマ)を回すと、主観色を見ることができます。SMLの3種類の錐体の反応に時間差があるため、この現象が生じると言われています。
主観色は微細な眼球運動が原因と考えられていますが、ベンハムトップの場合には諸説あり、未だに仕組みはよくわかっていません。
マッカロー効果
緑の縦縞、赤の横縞をそれぞれ10秒間、10回ほど見続けた後に、白黒の図に目を移すと、縦縞は赤に横縞は緑にと、逆に色づいて見えます。
さらに白黒の図を90度回転させると、それまで緑に見えていた縞が赤に、赤に見えていた縞が緑に色づいて見えるようになります。これは、視覚系は縞模様の方向(縦横)と、色(緑と赤)という2つの情報の組合わせに順応して生じる現象で、マッカロー効果と呼びます。
色の錯視:まとめ
色の錯視は、ファッション、アート、プロダクトなど様々なデザインに深く関わっています。色の錯視を理解し、うまく応用することで、より良いデザインを作り出すことができます。
次回から、色彩調和について解説していきます。
記事監修:株式会社プラスカラーズ 代表 岩田亜紀子 / 色彩検定1級カラーコーディネーター
参考文献:色彩検定公式テキスト 2020年改訂版